今回は、私が担当した80代男性・無職(年金暮らし)の死亡事故について、解決実績をご紹介します。
死亡事故の場合、被害者の年齢や収入などによって、賠償額は大きく変わってきます。
特に、80代で無職・年金暮らしの方の場合、若い方や現役で働いている方と比較すると、死亡逸失利益が低額になるため、賠償額も低くなりやすい傾向があります。
今回の案件では、単純に裁判基準で損害額を計算するだけではなく、弁護士介入前に保険会社が提示していた有利な条件を維持しながら、さらに死亡慰謝料を大幅に増額するという難しい交渉を行いました。
その結果、保険会社の当初提示額約1,680万円から、約2,320万円まで増額して解決することができました。
事故の概要
被害者は、80代の男性でした。
事故態様は、
歩道のある道路を横断中、車にはねられて亡くなられた事故
です。
なお、本件道路には、被害者側・加害者側のいずれかが優先するという関係はありませんでした。
弁護士介入前の保険会社の提示
弁護士が介入する前、相手方保険会社からは、以下のような賠償額が提示されていました。
- 死亡慰謝料:約1,400万円
- 年金逸失利益:約300万円
- 生活費控除率:20%
- 過失割合:当方5%:相手方95%
- 賠償金額:約1,680万円(既払い金を除く)
一見すると、過失割合も「当方5%:相手方95%」となっており、弁護士が介入したとしても、それほど大きく増額できないようにも思われます。
しかし、実際にはそう単純ではありません。
刑事記録を取り寄せて事故状況を検討
本件では、弁護士介入後、刑事記録を取り寄せて事故状況を詳細に検討しました。
その結果、訴訟になった場合には、
被害者側の過失が10%と認定される可能性が高い案件
であることが分かりました。
つまり、弁護士が介入したからといって、必ずしもすべての項目が被害者側に有利になるわけではありません。
むしろ、刑事記録等を詳細に検討した結果、訴訟では保険会社の提示よりも過失割合が不利になる可能性があることが分かったのです。
弁護士介入後に賠償額を増額
そこで、今回の交渉で重要となったのが、
「弁護士介入前の有利な条件を維持すること」
でした。
弁護士が介入すると、保険会社から、
「弁護士が介入した以上、損害額についても通常の基準に基づいて改めて計算します」
という対応をされることがあります。
その結果、弁護士介入前には保険会社が被害者側に有利に計算していた項目について、弁護士介入後に厳しく計算し直され、かえって賠償額が下がってしまうケースもあります。
今回も、まさにその点が問題となりました。
特に、年金逸失利益については、生活費控除率などの算定方法を訴訟基準に合わせて厳しくすると、弁護士介入前よりも金額が下がる可能性がありました。
また、過失割合についても、刑事記録を踏まえると、訴訟では被害者側10%となる可能性が高い状況でした。
今回の交渉で課された課題
今回、私に課された使命は明確でした。
それは、
「訴訟をすることなく、弁護士介入前の有利な条件を維持したまま、その他の賠償項目をできる限り増額すること」
です。
単純に裁判基準で計算し直せばよいという案件ではありませんでした。
むしろ、
弁護士介入によって、これまで有利だった部分まで不利に変更されてしまうリスク
がありました。
そのため、保険会社との交渉では、各損害項目について丁寧に主張しつつ、全体として最もご遺族に有利となる解決方法を検討しました。
交渉の結果、死亡慰謝料を大幅増額
粘り強く交渉した結果、年金逸失利益や過失割合については、弁護士介入前の有利な条件をそのまま維持することができました。
そのうえで、死亡慰謝料について大幅な増額を実現することができました。
弁護士介入前
- 死亡慰謝料:約1,400万円
- 年金逸失利益:約300万円
- 過失割合:当方5%:相手方95%
- 賠償金額:約1,680万円
弁護士介入後
- 死亡慰謝料:2,150万円(+約750万円)
- 年金逸失利益:約300万円(維持)
- 過失割合:当方5%:相手方95%(維持)
- 賠償金額:約2,320万円
結果として、
約1,680万円 → 約2,320万円
となり、
約640万円の増額
を実現することができました。
「死亡慰謝料だけ増えている」と思われるかもしれません
今回の結果を見ると、
「死亡慰謝料以外は変わっていないのだから、そんなに難しい交渉だったの?」
と思われる方もいるかもしれません。
しかし、今回の案件では、そこが重要なポイントでした。
弁護士が介入した場合、必ずすべての損害項目が有利になるわけではありません。
むしろ、弁護士が介入することで、保険会社がこれまで被害者側に有利に計算していた部分について、
「弁護士が入ったので、今度は通常の基準で計算します」
として、過失割合や逸失利益の算定方法を厳しくされることがあります。
今回、訴訟をしていれば、
- 過失割合が当方5%から10%になる可能性
- 年金逸失利益の生活費控除率が引き上げられる可能性
がありました。
そうなれば、死亡慰謝料を大幅に増額できたとしても、全体としての賠償額がそれほど増えない、あるいは場合によっては減少する可能性すらあります。
あえて訴訟をしないという判断
交通事故の死亡案件では、
「弁護士が介入した以上、裁判をすればもっと取れるのでは?」
と考える方もいらっしゃると思います。
もちろん、訴訟によって賠償額が大きく増額するケースもあります。
しかし、訴訟をすれば必ず賠償額が増えるわけではありません。
今回のように、訴訟をすると過失割合や逸失利益について不利な判断を受ける可能性がある案件では、訴訟のメリットとリスクを慎重に比較する必要があります。
本件では、
「訴訟をしないことで維持できる有利な条件は維持する。そのうえで、増額できる部分について最大限の交渉を行う」
という方針を採りました。
その結果、弁護士介入前の有利な条件を崩すことなく、死亡慰謝料を約750万円増額し、最終的に約2,320万円で解決することができました。
高齢者・無職の方でも適正な賠償請求を
高齢者で、事故当時に仕事をしておらず、年金で生活されていた方の場合、
「無職だから賠償金はほとんど出ないのではないか」
と思われる方もいらっしゃいます。
しかし、実際には、年金を受給していた場合には年金逸失利益が問題となりますし、死亡慰謝料についても適切な金額を請求する必要があります。
もっとも、一般的には、若い方や現役で働いている方の場合には、就労による逸失利益が高額になるため、死亡事故の賠償額もより高額になります。
そのため、
「80代・無職・年金暮らしなのに約2,320万円」という結果と、「若い会社員の死亡事故で数千万円~1億円を超える」という結果を単純に比較することはできません。
被害者の年齢、収入、年金額、家族構成、過失割合などによって、適正な賠償額は大きく変わります。
まとめ
今回の案件では、刑事記録を検討した結果、訴訟になれば被害者側の過失が10%となる可能性が高い状況でした。
また、年金逸失利益についても、訴訟基準で厳しく計算すれば、弁護士介入前よりも低額になる可能性がありました。
そこで、あえて訴訟に進むのではなく、
弁護士介入前の有利な条件を維持しながら、死亡慰謝料を大幅に増額する
という交渉を行いました。
その結果、
約1,680万円 → 約2,320万円
と、約640万円の増額に成功しました。
死亡事故では、「裁判をすれば必ずもっと取れる」というわけではありません。
重要なのは、その案件で訴訟をした場合のメリットとリスクを具体的に検討し、最終的にご遺族にとって最も有利な解決方法を選択することです。
当職は、これまで数多くの死亡事故案件を取り扱ってきました。
死亡事故について、保険会社から賠償額の提示を受けている方や、提示額が適正なのか分からない方は、ぜひ一度ご相談ください。
※本記事では、個人情報保護等の観点から、事案の詳細について一部修正・省略しています。


