示談段階でも、戦略的に交渉すれば訴訟基準満額は獲得できます。
今回の事案は、そのことを端的に示す典型例です。
◆ 事案の概要
- 被害者:70代女性(主婦)
- 事故態様:青信号の横断歩道を歩行中、車にはねられる
- 過失割合:0%
- 後遺障害:10級10号(左肩関節の機能障害)
◆ 弁護士介入前の提示額は「約530万円」
保険会社の初回提示は以下のとおり。
- 休業損害:約10万円
- 傷害慰謝料:約70万円
- 後遺障害部分:461万円(自賠責基準の定額のみ)
つまり、任意保険会社からの後遺障害加算はゼロ。
高齢で主婦という点を理由に、逸失利益を切り捨てる典型的な提示である。
◆ 弁護士介入後の最終示談額は「約1340万円」
交渉の結果、最終的に以下の金額で示談が成立した。
- 休業損害:約105万円
- 傷害慰謝料:約112万円
- 後遺障害慰謝料:550万円(裁判基準満額)
- 後遺障害逸失利益:約570万円(裁判基準満額)
- 労働能力喪失率:27%(10級基準)
- 喪失期間:平均余命の1/2
後遺障害部分は 461万円 → 1120万円(+約659万円)に増額。
総額は約1340万円、トータル増額は約810万円。
示談でありながら後遺障害慰謝料・逸失利益ともに裁判基準満額を獲得した点が本件の特徴である。
◆ 交渉で重視したポイント
■ 1. 高齢者であっても「10級=27%」は当然として主張する
肩関節の明確な機能障害であり、年齢を理由とした減額は根拠が薄い。
医学的・法的見解を用いて喪失率27%を確実に押さえた。
■ 2. 主婦でも後遺障害慰謝料は裁判基準満額
慰謝料についても「高齢者・主婦だから低額」という扱いは不当。
一切譲らず、裁判基準満額の550万円を獲得。
■ 3. 訴訟移行の選択肢を明確に示す
示談であっても、「この基準以下なら訴訟に移行する」という明確な姿勢を示すことで、
保険会社側も安易な減額提案ができなくなる。
この点が交渉を大きく左右した。
◆ 解決まで「約2か月」──大型事案としては異例の速さ
金額が大きいほど保険会社の内部決裁に時間がかかるが、
本件は約2か月で決着した。
主張内容を簡潔化し、争点を明確にしたことがスピード解決につながった。
◆ まとめ:示談でも訴訟基準満額は十分狙える
「示談では訴訟基準満額は無理」という誤解は根強い。
しかし、実務はそうではない。
適切に組み立て、戦略的に交渉すれば、示談でも訴訟基準同等・満額の獲得は可能である。
今回の事案は、
弁護士が介入しなければどれほど不当に低い金額が提示されるか
を如実に示すものとなった。


